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  3. 壁の記憶

壁の記憶

2026 4/29
2026-04-29

高架橋脚の壁に、円い跡が重なっている。
無数に、そして不均一に。

それは、かつてここにあった熱量が
地層のように積み重なった跡。

容赦なく降り注ぐ太陽の光がコンクリートの乾いた肌を
白々と照らし出している。

眩いほどの光の中に
ぽつりと取り残されたような静まり返った空間。
かつて誰かがボールと向き合い続けていたのだろう。

剥き出しの光に晒されたその跡を見つめていると
姿なき誰かの、ひたむきで孤独な背中が
確かな気配としてそこに立ち上がってくる。

姿はない誰かの物語を
目の前の痕跡から想像してみることにしよう。

フードの奥に広がるスクリーンに
眩い光を浴びた壁の質感を映し出す。


ピントを合わせ

露出を測り

一コマを送り出す。

その緩やかな所作を繰り返していると
散漫だった自分の視線が少しずつ目の前の「気配」へと
整っていくのがわかる。

それは、時を隔ててかつてここにいた誰かと
一瞬だけ波長が重なるようなシンクロニシティだ。

この記憶を定着させるには、物質としての銀粒子が必要だった。
光を物理的にフィルムへ刻み込むという手応えのある作業。
それは、かつてここで誰かが費やした時間への
私なりの誠実な向き合い方でもある。

12枚を撮り切るのに、数週間。
現像が終わるまで、さらに数日。

いま、あの場所の記憶は
フィルムの中で目に見えないかたちのまま
静かに眠っている。

効率を考えれば、もどかしいほどの空白。
けれど、結果を急がず
フィルムの中にある像をイメージしながら過ごすこの時間こそが
あの場所で感じた何かを自分の中でゆっくりと発酵させてくれる。

私は、世界にこぼれ落ちた「痕跡(Trace)」を辿ってゆく。

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